2026/07/17 10:00


最近は暑い日が続き、レッスンや運動が終わったあとに馬体を冷やす機会も増えてきました。


そんなとき、皆さんは水を切りながら馬を冷やしていますか?


乗馬の世界では昔から、


「水をかける」



「汗こきで水を切る」



「もう一度水をかける」


という方法が当たり前のように行われてきました。


もちろん私も、その方法を見てきましたし、そう教わることもありました。


でも、本当にそれが馬にとって一番良い方法なのでしょうか。




「違うんだけどな」と思った出来事


実は以前、JRAの資料を読んでいた私は、


「体温を下げるためには、水を切ることよりも継続して冷却することが重要」という内容を知っていました。


ある日、そのことを思い出しながら馬を冷やしていると、


「ちゃんと水は切らないと。」


と声を掛けられました。


その瞬間、私は「違うんだけどな」と思いました。


でも、その場で言い返すことはしませんでした。


議論したかったわけではありません。


説明しても伝わらないだろうと思ったこと。


昔からそう教わってきた人に、その場で考え方を変えてもらうのは難しいだろうと思ったこと。


「知られていないんだろうな。」


そんな少し残念な気持ちだけが残りました。





Horse & Houndの記事を見て、あの時のことを思い出しました


先日、イギリスの乗馬専門誌 Horse & Hound のInstagramで、このテーマについての投稿を見かけました。


Horse & Houndは1884年創刊の歴史ある乗馬専門誌で、競技だけでなく、


馬の健康や獣医学、馬術に関する情報も数多く発信しています。


投稿が気になって調べてみると、実は2019年にはすでに詳しい記事が公開されていました。


Horse & Hound


Leaving water on a horse will not make it hotter: expert busts the scraping myth


https://www.horseandhound.co.uk/news/leaving-water-horse-will-not-make-hotter-expert-busts-scraping-myth-690937


この記事では、馬の運動生理学を長年研究しているDavid Marlin博士が、


  • 水は空気よりも効率よく熱を奪うこと

  • 馬体に残った水も冷却に役立つこと

  • 水が温かくなるのは、馬から熱を奪っている証拠であること

  • オーバーヒートした馬では、汗こきのために冷却を止めるべきではないこと

などを、科学的な根拠をもとに解説しています。


「海外ではそう考えられているんだ。」


最初はそう思いました。


でも調べてみると、これは最近SNSで話題になった話ではなく、


海外では2019年から発信されていた考え方でした。




日本でも、同じような研究結果が紹介されていました


改めてJRAの記事を読み返してみると、そこでも同じような内容が紹介されていました。


JRAでは、


  • 常歩のみ

  • 冷水をかけて汗こきをする

  • 冷水のみ(汗こきなし)

  • 水道水を継続してかけ続ける

という複数の冷却方法を比較しています。


その結果、


最も効率よく体温を下げたのは、水道水を継続してかけ続ける方法。


さらに、


汗こきをしない方が、体温低下が速い。


という結果が紹介されています。


Horse & Houndの記事を読んだときに驚いたのは、この内容が海外だけの話ではなかったことです。


日本でも以前から研究が行われ、ほぼ同じ結論にたどり着いていました。


Horse & Houndは熱の移動という理論から。


JRAは比較実験という実証から。


異なるアプローチでありながら、ほぼ同じ結論にたどり着いていることがとても印象的でした。


JRA 馬の資料室


馬の暑熱対策


https://blog.jra.jp/shiryoushitsu/2024/09/post-4c04.html





「昔の常識が間違っていた」という話ではありません


ここで勘違いしてほしくないのは、


「昔の人が間違っていた」と言いたいわけではありません。


例えば飛越姿勢もそうです。


昔の競技映像を見ると、現在とはかなりフォームが違います。


今では馬の動きについていくような飛越姿勢が一般的ですが、


昔はライダーが積極的に飛びにいくような姿勢が主流でした。


でも、それは当時のトップライダーが下手だったからではありません。


研究や経験の積み重ねによって、


「こちらの方が馬にとって負担が少ない。」


「こちらの方が理にかなっている。」


ということが少しずつ分かってきたからです。


また、鼻革(ノーズバンド)も同じです。


以前は「しっかり締めた方がコントロールしやすい」と考えられることが多くありました。


しかし近年では、締めすぎが馬の快適性や


呼吸などに影響を与える可能性が研究で示されるようになりました。


その結果、FEI(国際馬術連盟)ではノーズバンド測定ゲージによるチェックが導入され、


締めすぎを防ぐためのルールも整備されています。


研究で分かったことが、実際に競技のルールまで変えている。


これも、「乗馬の常識」が少しずつアップデートされている一例なのだと思います。




本当の意味で馬に優しく


経験や、昔から受け継がれてきた知識、経験則。


それらは本当に大切な財産です。


だから私は、それらを否定したいとは思いません。


一方で、新しい研究や知見によってアップデートされることも、同じくらい大切だと思っています。


正直に言うと、私は競馬そのものを楽しむタイプではありません。


速さを追求する以上、故障のリスクとも向き合わなければならない競技であることに、


どこか複雑な気持ちを抱くこともあります。


それでも、JRAが馬の健康や暑熱対策、運動生理などについて長年研究を積み重ね、


その結果を公開し、必要に応じて考え方をアップデートしていく姿勢には、本当に頭が下がります。


競馬という大きな産業だからこそできる研究も数多くあり、その成果は競馬だけではなく、


私たち乗馬を楽しむ人にとっても役立つものばかりです。


今回の冷却方法も、その一つでした。


馬に優しくしたい。


その気持ちは、きっとみんな同じです。


だからこそ、本当の意味で馬に優しくなるためには、


「昔からこうだから。」


だけではなく、


「今、馬にとって何が一番良いのか。」


を学び続ける姿勢も必要なのではないでしょうか。


馬を思う気持ちは、経験からも生まれます。


そして、その気持ちをより良い形にしてくれるのが、新しい研究や知見なのかもしれません。


経験から学ぶこと。


研究から学ぶこと。


その両方を大切にしながら、馬にとってより良い選択ができるよう、


私自身もこれから学び続けていきたいと思っています。


Lauro Tackでも、海外の商品だけではなく、海外で発信されている情報や研究、


そして乗馬の「当たり前」を見つめ直すきっかけになるような内容も、


これから少しずつ紹介していきたいと思います。





参考記事


Horse & Hound


Leaving water on a horse will not make it hotter: expert busts the scraping myth


https://www.horseandhound.co.uk/news/leaving-water-horse-will-not-make-hotter-expert-busts-scraping-myth-690937


JRA 馬の資料室


馬の暑熱対策


https://blog.jra.jp/shiryoushitsu/2024/09/post-4c04.htm


※記事内のイメージ画像は、Horse & HoundやJRAなどで公開されている情報を参考に、内容を再構成した生成AIによるオリジナル画像です。写真やイラストの転載ではありません。